イスタンブールに行って帰ってきたその二日後、突然の下痢に見舞われた。
水ですら飲んだ後には間髪入れずにトイレに駆け込むぐらいの強烈なやつだ。
それが小康状態になったと思ったら、次に38度を超える高熱、さらには、のどの痛みでご飯が食べられない体調不良の波状攻撃に2週間近く晒された。
そして、ようやく昨日になって体のだるさも痛みもなくなったところである。
はぁーやれやれ。
気温も下がってきたし、こうして躰の不快が取り除かれれると、改めて健康って有難い〜、と思う次第である。
そんなところに、夫が帰ってきた。
彼は、このところ忙しくて、1週間に3回も埼玉と山口を往復しているのである。
「明日も、朝いちの飛行機なの?」
「そうなんだよー。台風が来てるから早い便に変えたんだよ」
「大変ですな」
言いながら、私はねー、ようやく体調が良くなったんだよ〜、だるさも熱もないって素敵〜、とスキップをして見せた。
夫は、そうかいそうかい、よかったね、と気のない様子で呟きながら、翌朝の準備に余念がない。
まぁ、仕事が忙しいのだから、仕方ないところである。
うむ、ここは少しばかり妻らしい気遣いを見せよう、と思った私は、冷蔵庫の中の糖度13%のあまーい梨を取り出した。
「これ、おいしいから、梨を食べなされ」
そういって、コホコホと病み上がりの嫌な感じの咳をしながら、皮をむいた。
近寄って行って、「ほれ梨、ゲホゲホ、じゃよ、ごほっごほっ」と、唯一残った症状である咳を連発しながら、梨を差し出した。
夫は、嫌そうな目でこちらを見て
「手は洗ったの? わたし頑張ってるんだから、伝染さないでよ」
と言うではないか。
「大丈夫だよ、抗生物質を飲み始めて24時間だか、48時間だかすれば、最近の感染力は無くなるんじゃよ。
私の体は、いま、抗生物質であふれているから、とってもあんぜんなのだよ〜」
と言い聞かせ、梨を剥いた手で、彼の腕にぺたぺたと触った。
やめてよー、とかなんとかいう夫に、他の人には感染らないってお医者さんも言ってたよと、よく言って聞かせたのであった。
病は気から。
家庭内感染、おそるるに足らず。