のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

世界の成り立ち とびお編

とびおくんは、夜はいつでもボイジャーと呼ばれるバリケンタイプのキャリーでできた簡易犬小屋で眠りにつく。
ボイジャーの中は、いつも薄暗く、世界一安全な場所だ。
夜がふけてくると、自らそこにもぐりこみ、体を丸める。
そして、自分のしっぽのふさふさに鼻先をうずめれば、すぐに安らかな眠りのヴェールが訪れる。

この儀式を、とびおくんは、できることなら毎日夜9時には行いたい。
夜9時に就寝し、朝5時に起床する。
それがあるべき生き物の姿だと、とびおくんは確信している。
しかし、不摂生きわまりない家人どもは、自然の摂理というものを全く理解していない。彼らは、その場しのぎの享楽的な時間の使い方をし、夜11時を回っているというのに、けたたましい笑い声を立てながら、とびおくんの背中をつついたり、くちびるをむにゅっと持ち上げたりする。

しかし、とびおくんは、社会性ある生き物として、協調性と思いやりを第一に考える。
考えていはいるが、自然の摂理には逆らいたくない。
かくして、明るい電気に照らされたリビングで、ひたすら、ボイジャーがある寝室へのドアが開かれる機会をうかがい続けることとなる。

家人が洗面所に向かうとき、チャンスは到来する。

いまだ!
とびおくんのココロははやる。
しかしここで走り出してはいけない。
ボイジャーへ向かったのを家人に気づかれれば、いつ邪魔をされないともかぎらない。
家人は節度をわきまえない常識ハズレなやつらだ。
できるだけ静かに、なんでもない振りを装いながら、家人のしらないうちにボイジャーに滑り込まなければならない。

とびおくんは、けむくじゃらの短い足を早すぎず遅すぎず動かしながら、まっすぐ寝室へと向かった。
暗がりのなか、静かに毛布に足を踏み入れ、そっと身を横たえる。
しばらく息を潜めて家人の様子を伺う。
どうやら、誰も邪魔をしにやってくる気配はない。
ふぅっ。
これで今日もやっとゆっくり眠れる。
ケージの中からは、数分も立たないうちに、安らかな寝息が聞こえ始めた。

「あれっ?とびおは?」
「もう寝にいったよ。」
「えーー。やられたー。また明日5時に起されちゃうじゃない!」
「仕方ないね」
「明日は早起きできないようにもっと、遅くまで起しておこう!!」
「そうしよう」

共同生活とは、かくも様々な困難に満ちている。