のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

一分間の奇跡

ウィスコンシン州のある片田舎の町に、ジョンという悪党が、
刑務所での刑期を終えて戻ってきた。かれの悪行ぶりは相変わらずで、
さっそく町の3つの店では、いくつかの品物が盗まれた。町の人々が
おびえる中、ジョンは我が物顔に振る舞っていた。
ある日、町から程近い場所の裕福な牧場主の娘、スージーが父から頼まれた
用を足しにやってきた。若く美しいスージーが歩いているのを見つけたジョンは、
彼女の行く手をさえぎって、じろじろと眺め回し、言った。
「今度の金曜、ダンスに行かないか?」
スージーは、好みのうるさいことでは町でも評判の娘だったが、しばらく考えて答えた。
「あなたが紳士ならかまわないわ」
ジョーが道をあけると、スージーはそのまま歩き去った。



翌朝、略奪された店先には、なくなったものが箱に入れて戻されていた。ジョーは、
スージーの父が経営する牧場に行き、そこで作業員として雇ってもらった。ジョーは
条件のとおり、紳士として振舞い始めたのだ。
次の週から、彼らは毎週金曜日には一緒にダンスに行き、1年後には結婚をした。
ジョーは牧場の経営を手伝うようになり、さらには町の教育委員会の委員となり、
後の高名な心理療法士となるミントン・エリクソンを励まし、大学まで進むきっかけを
与えた。


ミントンいわく、
「おわかりですか。ジョーが受けた心理療法は、『あなたが紳士ならかまわないわ』
という一言です。・・・・心理療法は患者の内面で行われなくてはなりません。すべてを
行うのは患者であり、患者がその気にならなくては始まりません」


言うまでもなく、ジョーが受けた心理療法が「一言」であったというのは、
ミントンの誇張だと思う。
けれども、それを『たった一分間の出会い』といえば、真実だろう。


それは時々、ある人々の間にだけ訪れる奇跡のように思える。
ジョーを訪れたような鮮やかな奇跡を無意識のうちに待ち焦がれている人は
どんなにたくさんいても、それがやってこない人生というのは決して少なくは
ないように見えるから。
それでも、ずっと待ち続けていると、多くの人はやがて重い腰を上げる。
奇跡が人を導かなくても、
人々は自ら重い腰を上げざるを得ない。


通常、動物というのは、環境の変化を好まない。
だから私は、「変化を望む」ことは、人間をほかの動物と違う存在にしている
特徴のひとつだと思ってきたけれども、
変化を「望む」状態を続けることをやめさせ、結局、「変化」を引き起こすのは、
本能的な要因によるもののような気がする。


まぁそれはさておき、昨日書いた本の中のRESOLVEモデルというのは、
そうやって人々の内面でおきる、自ら変わる力、を促進するためのモデルであり、
一個の完全な人間として、クライエントを尊重することにその真髄がある、と
説かれている。
そして、その真髄を一言で表す言葉を「愛」と呼んでいる。
これが、私がこの本をとてもよい本だと思う理由である。



ただ、でも、それにしても、
どんな泥沼からでも立ち上がってくる強さを人間が持っているとして、
それでも、そのまま溺れることを選ぶ人々もいる。
・・・・いるのかな?
私にはまだ分からない。