のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

お散歩

毎日、トビーといっしょにお散歩をしている(たまにさぼるけど)。
近所をてくてくてくてく、ただ歩く。
トビーは、ときどき電信柱の前で足を踏ん張り、リードがぴんと伸びて私の足を止める。


そしてトビーは、黒い染みのある、どう見ても美しいとは言えない電信柱の下から側面にかけて、舐めんばかりに鼻を擦り寄せフンフンと臭いを嗅ぐ。
丁寧に執拗に、臭いをかぐ彼の尻尾は垂れ下がっている。
後ろ足はときどき、ぷるぷる震えてさえいる。
彼はじつはとっても怖がりなので、他の犬の臭いに緊張しているのだ。
にもかかわらず、この執着ぶりは一体何なんだろう。
電信柱が近づくと常にそばに寄っていき、少しでも感じるものがあると、ふんむっと四肢を広げて私を進ませまいとする。


多分、トビーにはトビーなりの、散歩によって呼び起こされる様々な思いや記憶があるのだろう。
歩いて、嗅いで、歩いて、嗅ぐ。
その間に、彼は様々な思いをめぐらす。
そして私も、
歩いて、立ち止まり、歩いて、立ち止まり。
そんなとき突然、ある思いや記憶が心をよぎって、しばらく立ち尽くすことがある。
あたりが夕闇に包まれる時刻、立ち止まって物思いにふける私を、(臭いをかぎ終わった)トビーが不思議そうに見つめている。


何してんの?次行こうよ、つぎ。
トビーの目は私にそう訴える。
彼は、今ある臭いをかぎ、今ある世界を見ている。
だから、すぐさま、次へ次へと進もうとする。
けれどわたしはこの夕暮れの町で、過去を見て、過去を歩いている。
過去を歩いているとき、この世界では立ち止まっている。
トビーは、私がどこを歩いているのか知らない。
だから不思議そうに、私を見上げる。
私がトビーの黒い目を見つめ返すと、脇を自転車がすり抜ける。
それを合図に私は戻ってくる。この世界に。


ほっとして歩き始めたトビーのお尻に向かって、私はつぶやく。
人間は、いろんなところに行くものなのよ、トビー。
月にも、過去にも、未来にもね。