夜になって、トビーの散歩に出た。
家の近くの小さな交差点で、私とトビーは立ち止まった。
車が全く通らない空っぽの道の、
闇の中で光るアスファルトを前に信号を待っていると、
時折、家路を急ぐ人が道路の向こう側を通過していく。
この小さな道は、渡ろうと思えばいつでもどこでも渡れるのだ。
けれど私は、とくに急ぐでもなく、
ただ信号が変わるのを待っていた。
あまりに長いこと信号が変わらなくて、
そして幾人もの人が目の前を通り過ぎていくのが気になって、
ようやく私は、信号機の横の押しボタンを発見した。
『みんなと違う方向に行くためには、
自分でボタンを押さなければならない』
そんな教訓めいたことを思いつつ、ボタンを押す。
そして私は待ち続けたけれど、それでもしばらく信号は変わらなかった。
業を煮やして再び押しボタンを見ると、表示は変わっていなかった。
押したはずのボタンは、押されていなかったのだ。
私は、もう一度、今度は前よりも強くボタンを押し、
「お待ちください」の表示が出るのを確かめた。
力を込めてボタンを押すと、すぐさま車道の信号が変わり、
歩行者用の信号も青に変わった。
歩き出した私の背後に、同じく道を渡る人がいた。
あれだけ長いこと一人で待っていたときには、誰も私と
同じ方向に行こうとする人はいなかったのに。
信号が変わった途端、そちらに行こうとする人が現れるとは不思議なことだ。
そして私は、夜道を歩き続ける。
愛らしい四足の獣をお供に。
私たちの向かう場所へ、
私たちは歩いていく。