今日は、いちにち曇り空だったけれど、
昨日は夕方散歩にでたら、そらには下弦の月が浮かんでいた。
丸い弧の部分を下にして、薄墨色のそらにぼんやりと光るその姿は、
爪切りで切り取られた爪を思い出させた。
それはあまり他人に共感してもらえなさそうな思いつきだけれど、
なぜか私をとても感傷的な気分にさせる。
今はもう輝く青葉になってしまった桜が、
花盛りを過ぎたときにも同じ様なことを考えていた。
桜の花びらは、健康そうなピンク色の爪にみえる。
花びらが散ってしまったあとの木々は、
まるで、爪が剥がれたときのように、
残された花の萼(ガク)が血の色に染まっていると思うのだ。
もっとも、
空にぽっかり浮かぶ「切られた爪」には、
そんな痛々しい印象はなくて、
夕闇の柔らかな光に照らされたあいまいな色のせいか、
まるで「恋人の爪」みたいに見えた。
忘れ去られた過去の記憶。
ありふれた普段着の生活の中で目にした、
恋人の爪。
それが、どんないとしい時間だったかも知らないまま、
見ていた
下弦の月。