のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

「ごめん」って言えない妻で、ごめん

 今日は、日米野球前の壮行試合で、福岡で台湾と試合があるという。記者会見で日本チームの誰かは、「全力で勝ちに行く」と述べたそうだ。
 スポーツする人は負けず嫌いだよねーと、錦織圭さんを思い出しながら考えた(なにしろ、テニスは精神力のスポーツである)。そういう人たち向けにスポーツがあるのは幸いである。
 いや待て、でもスポーツが苦手な人はどうするのだろう?ビジネスの才能があれば、会社で勝てばいいし、芸術の才能があれば、絵や音楽や絵画で勝てばいい。
 でも、特に何もなくて口だけ達者だと、なかなか困るかもしれない。周りの人が。


 話は変わって、昨日夫と話していたら、
「そういえばさ、今日、ブラックカードのお誘いの手紙が来たんだよ。いわゆる、インビテーションっていうやつ」
と弾んだ声で言ってきた。
 今思えば、この時点でもっと夫が何を言わんとしているかに気をつけるべきだったのだ。しかし、私は、そんな細やかな気遣いができるタイプではない。何より先にクレジット会社の儲け主義に警戒心がもたげて、聞いた。
「えーブラックカードぉ? なになに、それは会費はいくらかかるの?」
「3万円、今のプレミアムカードが1万円だから、まあ2万円プラスだね」
「えーそんなの絶対必要ないでしょ、どんなメリットがあるっていうの?」
「プライオリティパスが2名まで仕えて、空港のラウンジに二人で入れるんだよ」
「えー、2人でラウンジなんてそう使う機会無いでしょ」
「だって、この前トルコに行ったときだって、1人しか入れないから使えなかったんだよ。」
ANAのラウンジに入れたじゃない。ANAで十分だよ」
だけど他にもメリットはある、と夫が言うので、どんなメリットがあるのかと問うと、ポイントがどうだ、利用制限がどうだと挙げていく。それを私は、片っ端から3万円の会費の価値と比較し却下していった。
「なんでそんなに否定的なの?いつもそうやって継続的にお金出すことをすごく嫌がるよね。」
私の否定攻撃に、夫はすっかり気分を害したようだった。
「大体、あなたって変わってるよ。インビーテ―ションは選ばれた人にくるんだよ。こういうのは、ステイタスなんだよ?」
ここまで言われても私は、事の本筋が全然分かっていなかった。半ば相手の言うことを肯定するつもりで言い返した。
「そりゃー、私が変わってるなんて、まえから分かってることでしょ。なにをいまさら」
「あのさ、普通、こういうのきたら嬉しいでしょ、私は、会員になるつもりはないけど、嬉しかったんだよ。」
と、ここまで言われて、ようやく気付いた。何と夫は私の、
「すごーい、よかったねー!」の言葉を待っていたのだ。
しかし私はすでに引っ込みがつかなくなっていた、というより、どう方向転換したら良いかさっぱりわからなかった。大体、普段から反応が鈍いのだ。箪笥の角に足をぶつけて2秒ぐらいたってから、痛いとうづくまるぐらいのものだ。
 だから、心の中では夫への申し訳ない気持ちがいっぱいになっていても私がすぐ後に口にできたのは、クレジット会社の売上獲得の戦略だとつい思ってしまったという言い訳っぽい否定的意見だった。
 その不穏な空気を引きづりながら、話題はげんざぶろうに移っていったそのあとで、私は再び、ブラックカードの名を持ち出した。何といったのか、あまりよく覚えていないけれど、「申し訳なかった」とも「ごめん」とも言ってはいないと思う。何か、話の流れ的に、謝るのは不自然な気がしたからだ。おそらくいったのは、まぁインビテーションもらえるのは嬉しいことだよねとかなんとか、論評みたいな言い方だった。だから、夫の心には何一つ響かないまま、気まずく電話が切れた。

 書いていて、自分がなかなかすぐに「ごめん」と謝れない人なんだと気づいた。

 その時の心境を事細かに思い出してみれば、話の流れとして、つまり、クレジット会社のインビテーションというものがいかに商業主義的な策略なのか客観的な意見の表明と、相手の期待を踏みにじる行いかどうかの想いは、あまりにスタンスが違いすぎて、意識の上での遠い遠い距離があったと思う。だいたい、「客観的に考えた正当性」に頭は占領されているから、その意見を表明したことが「悪い」とは、すぐに思うことができない。そこが悪いわけでもなんでもなく、ただ、相手を傷つけたことに対して何をどう考えればいいのかという気持ちの問題に、すぐに切り替えられないのだ。
 言ってみれば、それは脳から心への意識の跳躍のようなもので、私には大変に難度が高いジャンプだ。夫には申し訳ないことに。

 しかし、夫は、私がぬるいお風呂をかき混ぜるつもりで手を突っ込んだら表面が熱湯で、2秒ぐらいあとにようやく「あつ」っと手を引っ込めるのをみて、「・・・反応おそすぎ」と、呆れている。
 だから、私と話してがっかりしても諦めて、なんとか許容してもらえればなぁと思う。