また例によって、犬を連れて公園で散歩をしていたら、今度は女の子に話しかけられた。
「犬、かわい~」
と、身をくねらせ、はにかんだようにして去っていった。笑って見送り、茂みに鼻を突っ込んでいる犬を見つめていると、また女の子が戻ってきた。
「虫がいた!」
慌てた雰囲気に押されて
「それはたいへん、気を付けてね」
と、つい答えてしまった。
虫は、気を付けるべきものなのか?と、またくよくよ考えながら散歩を続けた。家に戻り、犬の足を洗う。朝ご飯を食べようとキッチンに行くと、シンクわきに1.5㎜ぐらいの細長いイモムシがいた。赤黒い色をしていて、どことなく不吉である。
どこから来たんだろう?と訝しがりながらも、外に出すべく手近にあったビニールのヘリに乗せようとする。しかし、頭にビニールが触れると、くいっと体を曲げて方向転換をする。嫌だ!という強い意志を感じる俊敏さだ。
出してやるから、乗って。
嫌だ!
乗って。
嫌だ!
何度かの応酬を繰り返し、ようやく、ビニールの真ん中に丸くなったイモムシ君を載せる。ベランダから外に放ち、ほっと一安心した。
それから、30分後、キッチンに立つと、さきほどの位置に、さきほどの形と色のイモムシちゃんがいる。なぜ!?どこから!?
やはり虫には、”気を付けて”で合っていたっぽい、とおののきながら、ひとりでうなづくのであった。