そういえば、年の初めに、「今年は読書日記を書く!」という宣言をしたのであった。
(と、まるでいま思い出したような口ぶり・・・)
今年になって、読了したのは、
- 作者: 松田青子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/02/10
- メディア: 単行本
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- 作者: 葉室麟
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2013/11/08
- メディア: 文庫
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- 作者: カズオイシグロ,Kazuo Ishiguro,土屋政雄
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/10/14
- メディア: 文庫
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この作品は、アーサー王が活躍したのちのイギリスを舞台にした、ファンタジー小説、ということになっている。主人公は、年老いてぼんやりとした記憶の中で生きている二人の老夫婦。というと、老化現象で記憶力が低下した人、かと思うかもしれないけれど、記憶が失われているのには明確な理由があり、その因果を巡る老夫婦の冒険譚でもあり、ラブストーリーでもある。
老夫婦の旅は、自分たちのぼんやりとした記憶を手繰り寄せるように進んでいく。その過程で、当初は漠然としていた謎が少しずつ明らかにされていくけれど、通常のファンタジー小説につきものの血沸き肉躍るような興奮や高揚はほとんど見られない。けれど一方では、その記憶を失わせた元凶である竜退治を企てる戦士がいる。
すでに、自分たちの人生の大部分を終えようとしている老夫婦とは対照的に、戦士は、失われた過去を取り戻し、未来を生じさせようとする。それは見方によっては、うやむやにされた蛮行を暴き、見ないふりをしてきた積年の恨みを晴らす英雄的な行為かもしれない。けれど、この作品では、そうではない面にずっと光を当て続けている。つまり、勇者の行為の裏に常に潜む、陰の部分に。
記憶は、長い年月を経て擦り切れていく。年を取れば、その意識自体が混とんとし、ある種の諦めに絡め取られるようにして、受容の罠に落ちていく。その先で得られる「安息」を肯定するのは自然なことかもしれないけれど、何かが失われていくような心許なさを感じずにはいられない。
現代では、「認知症」が世に広くはびこるようになり、「フェイクニュース」が真実の存在そのものを覆い隠すようになり、政府や大企業が足並みそろえるように文書やデータを改竄する。頼りにすべき「確かな記憶」も「客観的に正しい事実」も、ふと気づけば、身の回りから消え失せようとしているということなのか。
記憶にヴェールをかけて思い出せなくしている「竜の息」は、現代では、私たちのあるべき感覚を鈍麻させ、見えなくさせている何かかもしれないと思う。
そして、昨日のカウンセリング。
面白くもない政府のための研究。「調査」と名のついた、既定路線を補強する数値的材料を捏ね上げつづけるのに、ほとほと嫌気がさしたという話だったのではなかったか。
何も新しいものを生み出すことがないだけではなく、それが間違った方向に人々を誘導し突き進ませる道であっても、せっせとアスファルトを敷き続けていかなければならない工事監督をするとしたら。
私の中で、話は少し先に進んでしまったみたいだ。
けれど、忘れてしまうことによっても、感じないふりをすることによっても、歪はきっと残り続ける。地下でマグマが少しずつたまって、いつか火を噴くことがあるように。
そういう象徴的な、日々のできごと。