昨日、夫は山口への日帰り出張を果たして家に帰ってきた。これおみやげよ、と手渡されたのは、山口特産の「かほりのジュレポン」だった。
これは、夏ミカン果汁をベースにと夏みかんオイルを配合したとっても美味しいドレッシングである。私は浮かれて、「おかえりぽん、ゆずぽん、じゅれぽん♪」と踊りながら出迎えた。
しかし夫は、私の華麗な舞よりも、テレビのニュースに注意を惹かれたようであった。そこでは、山中伸弥さんが、新元号の原案に対する意見を聞く有識者懇談会のメンバーに入ることが述べられていた。
「なんで、こんなのに山中さんを呼ぶんだ。山中さんは忙しいんだよ?」
とテレビの前で仁王立ちになって憤る。
売り上げ1兆円を超えるグローバル企業の社長と、まち工場を経営するおっちゃんぐらいの違いはあるかもしれないが、彼は、同じ業界に携わる者として、山中さんの窮状を憂えていた。
「山中さんぐらいの人になると、再生医療センターの予算獲得のためには、紅白歌合戦とか新元号とか、呼ばれたらどこにでも行かなきゃいけないんだよ。」
と、私は知ったかぶりで答えた。
がしかし、このニュースを翌朝もラジオで聴くと、そこには、〝新元号は、やんごとなき人々が、適切なるプロセスを踏んで着々と決めておるので、庶民は安心なされい
”という政府のお達しがプンプン匂う。
よく考えてみたら、確かに、山中教授は忙しいのである。彼は、何と言ってもノーベル生理医学賞を受賞した研究者で、現在最も熾烈に研究開発競争が繰り広げられている分野である再生医療の最先端を走る人なのである。
最も大事なのは、病気で苦しむ人たちに、確かな治療法を届けることなのだ。しかも、それが変な特許で抑えられて医療費が高騰していかないよう、世界の抜け目ない研究者と先を争う毎日なのだ。
一分一秒でも早く!、と急ぐあまりにマラソンでも3時間30分を切ってしまうぐらいなのだ。
先日の東京マラソンで自己ベストを出せなかったのは、そんな打診をもらったせいかもしれない。元号なんて考えている間に、また、新たな実験の認可が遅れてしまう・・・、と脱力してしまったのかもしれない。
どうして日本は、適材適所というものを軽んじるのだろうと思う。
山中教授が、生理医学賞をもらったのは、生化学分野での仕事の成果が超弩級にスゴイ!からなのだ。世界が、彼は新たな科学の扉を開く人だ!といったのであり、そして彼も、何よりそれが私の人生の使命だ!と思っている人なのに、なぜ政府は、彼を研究に専念させてあげられないのだろう?
政府自身が、再生医療を日本の次の高度戦略のキーテクノロジーとして考えているくせに、何故邪魔をする?
せいふ、ばかなの?
それとも、かんりょうがばかなの?
思えばこの国では、新卒採用の時から、個人の適性や専門性を軽んじられ始まる。組織の中で押しつぶされ、やがては自分で消し去っていく人が、どれほどたくさんいるだろう。いや、学生のときから、すでにそうだったか。だから、みんな口々に言うんだ。「自分が何をしたいのか分からない」
でも、やりたいと言っている人、しかもその能力も成果もずば抜けている人ぐらいは、自由にさせてあげても、誰も困らないんじゃないの?
個人の適性や専門性を飼い殺しにする日本は、それがために衰退の道を歩むんじゃないかと思う。