それは、ロード・オブ・ザ・リングで、
かの醜いスメアゴルが幾度となく囁き、呟き、問いかけ、叫んだ言葉。
いとしい、しと。
my precious.
誰かを(あるいは何かを)とてもとても好きになると、
自分自身が、とても愚かにみえるときがある。
誰かを心から熱望するほど、
自分が愚かで、間抜けで、無様に見える。
そういう経験をしたことがある人は、
スメアゴルの醜さに自分を重ねる。
かすれた声で囁く。
my precious.
愚かで醜い姿のスメアゴルは、まるで執着の権化のよう。
私は自分自身が過去、何度も経験した執着の愚かさを思い出しながら、
けれど同時に、嫌悪感ばかりではない何か人間じみた暖かみをそこに感じる。
誰かや何かを大好きになるのは、もともと「ポジティブ」な感情だけれども、
それが行過ぎて執着になれば、色んな「ネガティブ」が生じると分かっている。
でも「ネガティブ」が全てお掃除すべき不必要なものだとは、
じつは思ってなかったりする。
だって、スメアゴルは、あれで結構愛すべきキャラクターで、
ラストで火山のマグマに落ちるまでは、
全編とおして、存在感ある大事な役なのだから。
全ての執着を捨てて、
あらゆる煩悩から解放されて、
まっさらのキレイな心で生きていくのは、
理想ではあるけれど、
何かに血迷って必死な姿も、それはそれで結構美しい。
なのでたまには、囁き声で、
my precious.