のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

このドアを開けてください

恐怖。
彼女が感じているのは、とてつもない恐怖だった。


それは過去のあるとき、蜘蛛の糸に絡め取られるようにして身動きできなくなったそのときからずっと、体に張り付いている。


彼女は、そのドアを開けてもらいたかった。
彼女に向けて、そのドアが開かれることを望んでいた。
「このドアを開けてください」
そういいながら、彼女は必死にドアをノックし続けた。
何度も、何度も、強く、強く。


けれど、ドアは開かれなかった。
ドアの中に何があるかを彼女は知っていて、ようやくドアの前までたどり着いたのに、その目的のものに彼女は会えなかった。


そしてそのとき、彼女は深い失望という蜘蛛の糸に絡め取られた。
失望の糸からは、拒絶と否定という毒素が染み出していた。
彼女は、それを恐怖した。


彼女は、ドアの中に何があるかは知っていても、その何かが彼女のノックをどう感じているかは知らなかった。
その何かは、実は彼女を待っていて、けれど彼女のノックにおびえていたことを知らなかった。
ドアの中で、彼女の力強く何度も繰り返されるノックは、大きな騒音となって響いていた。
あらゆる壁に反響し、部屋の中にいるものを怯え、動かなくさせていた。


さぁ、どうやって、彼女に気づかせてあげられるだろう?
ドアは、彼女のために、開かれるのを待っている。
ただ、彼女は、ノックの仕方を変えるだけでいい。
あんなに強く叩き続けて疲れ果てた手には、ドアの前にかざす力すら残っていないという彼女に、
拒絶と否定への恐怖のあまり、もう、ただの一度もドアに触りたくはないと思う彼女に、
どうやって、気づかせてあげられるだろう?


つまり、私は、そんな仕事をしているのだと思うのです。