私がオーストラリアに住んでいたとき、はじめてインターネット書店を利用した。どういうきっかけだったか、全然覚えていない。けれど、最初の登録住所は、CanbellaのO'connorで、英語サイトだった。日本に戻ってからしばらくすると、日本語サイトもできた。私は、その間、2回住所も変わり、仕事も変わったけれど、使用頻度は増えるばかりだ。
そのアマゾンを創業したジェフ・ベゾスについての本を、先日図書館の中を歩いていて発見した。何しろ、天才と呼ばれる世界トップの経営者だから、たくさん本も出ているだろうけれど、それまで彼の本を読もうとは思わなかった。
よくいる、とてもスマートでエネルギッシュな野心家、かつリベラルで頭が切れるIT企業家の一人、としか思っていなかったからだ。その印象に特に変化はないけれど、まぁ、当然のことながらどんな業界であれ、その経営者の考えや主義主張は一人ひとりちがう。むしろ、個性的である、というのが数少ない共通点になるぐらいに、それぞれ相違はあるかもしれない。
けれど、私がジェフ(と、ずいぶん親し気な呼び方)に興味を持てたのは、amazon.comという会社が、徹底して犬にはやさしい、というところだ。
この会社は、徹底した倹約主義で、社員のデスクもドアデスクと呼ばれるドア用の合板でできていたり、受付のランプが、電源コードにぶら下がった電球を束ねただけだったりする。駐車料金も、おやつ代も個人負担というなかで、なぜか受付には社員と一緒に通勤する犬用おやつが置かれているのだ。他にも、オフィスビルのよこの水飲みも人間用の足元に犬用の蛇口がついていたり、犬の糞ボックスまであったりと、綱吉もなっとくの待遇ぶりである。
そうした犬の尊厳重視な社風は、そもそもジェフが台の犬好きだかから、らしい。ジェフは、好きなものは徹底して大事にする性格なのか、他にもコーヒーが大好きなので、会社内にはあらゆるところにカフェテリアも完備されている。
こうした姿勢を、自分の個人的価値観を会社に持ち込む傲慢な経営者と、日本でだったら言われるのだろうか?
けれど、自分が大事にしたいものを堂々と自ら尊重し、他の人にもその機会を提供する姿勢は、実はとても生産的なことのように見える。
猫に対して優しくないから、犬に対しても特別優しくしてはいけません、となるとこれは、日本的な「ひいき排除」だ。
もともと、猫も犬も会社に入れてはいけないところが、犬が入れるようになったら、少しだけ、生き物すべて仲間の会社に、一歩だけ近づく。
犬が入れるようになれば、次に猫が続くかもしれない。きっと、そう期待して、自宅の窓越しに、出勤するご主人の背中を見つめている猫は少なくないだろう。
(というか、別に猫も連れてきていいのかもしれないけど。ただ、トイレには、人間の男女マークに加えて犬のマークもあるけれど、猫マークはないので)そうした猫たちにとっては、犬が先陣を切って先に進んでいくのは、きっと大歓迎に違いない。
まぁそんなわけでともかく、ジェフは、自分が正しいと思うことは強い信念で押し通し現実にする。そのやり方は、ときに冷酷とも評されるのだけれど、彼曰く
「我々は、正真正銘、顧客第一主義です。」
と明言する。私が興味があるのは、その顧客第一主義を貫き通す先に、何を見ているのか?だ。
また、amazon経営陣の必携書とされているナシーム・ニコラス・タレム著の「ブラック・スワン」からの言葉が、このamazonについての本を書き始めるにあたって、ジェフの口から出されている。
いわく、
「人間は、脳の限界により、関係のない事実や出来事の間に因果関係を見出し、分かりやすい講釈をこしらえてしまう傾向がある。」
つまり、さまざまなアイディアが生みだされ、形になっていくのは複雑なぐちゃぐちゃしたプロセスを辿った末のことだと言いたいのだ。
ストーリー化された経験や記憶によって分かりやすい物語を構築し明確な意味に単純化してしまうと、本当のところが見えづらくなる。
なので、ジェフ・ベゾスが目指すものは何?という私の疑問は、そう簡単に言語化されえないのかもしれないな、と思う。ひとまず、これが、目下読んでいる本。
- 作者: ブラッド・ストーン,滑川海彦,井口耕二
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/01/08
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