のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

今年いちばん衝撃を受けた作品

 今年、私はとても見たかったのに見られなかった映画がある。それは、「メッセージ」
 異星人から人類に宛てたメッセージを、言語学者が読みといた結果、そこには衝撃的な結末が待っている、という噂の作品。(あくまで、噂の意訳です)

 なので、映画は見ていないのだが、その原作である「あなたの人生の物語」(テッド・チャン著)を現在読んでいる。これは短編集なのだが、作品を読み進めていくうちに、どんどんその精緻な構成と仕掛けに魅せられていく。と同時に、ちょいちょい胸に響く表現がちりばめられた文章にも心地よく心を動かされていきながら、3作目の「ゼロで割る」という作品を読んだ。
 
 そして、読み終わった。正確には、終わった、と思ってないまま次ページをめくったら、次の作品のタイトルが目に飛び込んできて、
 「え!?なにこれ!!」
とびっくりした、という次第である。
 何しろ、そこで終わるとは予想だにしていなかったので、まるで目の前でしゃべっていた人が、こつ然と姿を消したかのような衝撃だった。
 その小説は、3つの対象が、章ごとに順繰りに焦点化され、語られながらストーリーが進む構成で書かれていたが、その全体でどんな意味が織り上げられようとしているのが、今一歩理解できていなかった。
 それが、クライマックスらしい章に突入し、そこから謎が解明されるオチ、つまりフィナーレが始まると期待し、身を乗り出した瞬間に、ブチっと電気が切れて辺りは真っ暗。暗転して終了。そんな印象だった。

 けれど、10秒後ぐらいに気づいた。そこはかとなく。
 それらすべては、その小説世界で表されようとしていたテーマのありようが、その主人公たちの描かれ方そのものに投影され表現されていたのだった。

 相互理解と、感情移入、自己撞着。

 すごく衝撃的で、なぜそこで終わるのか、それがどんな意味なのかなど、最初に読み終えたときには分からなかった。けれど、そこで表現された、二人の主人公たちの関係性の分離は、そのまま小説と読者の分離であり、このテーマが提示するもの読者自ら体験することで、いやおうなしに感じ取らさせられる仕組みなのだ、ということを直観的に感じた。

 その後、「今年、一番びっくりした、衝撃を受けた経験」として、人に話したくて仕方なかったけれど、何をどう話せば通じるかが分からなかったし、話された方も訳が分からないままでさぞ困るだろうと思い、誰にも話せなかった。
 そういう時私は、身の回りに、自分が人生で心惹かれるもの、感動するものを共有する人がいないのを少し哀しく思う。

 けれどその後、その短編SF小説を夫に読み聞かせした。
 朗読が上手、という予想外の褒め言葉ももらったけれど、結果的にとても良かったのは、朗読によって、そこで語られたテーマと、小説の結末の意味とがクリアになったことだった。さらに、そのテーマの語られ方に、意味が分からないながらも私がこんなに衝撃をうけたかの理由もわかった。

 そしてわかったことは、
 テッド・チャンは、とっても頭がいいSF作家である
 その彼が描く世界は、私の、自分と世界への認識を手助けしてくれる。
 このように私の心を強く引き付けるものが世の中にはあちこちにあり、それが、私の心をより遠くに運んでくれる。
 そして、私の心は、遠くに運び去られることを望んでおり、他の誰も運んではくれない。