のんびりライフの鳩日記

日常の、あれこれ感じたことなどをつづります。(不定期更新)

世界の成り立ち とびお編 vol.2『自給自足』

とびおくんは、食欲旺盛大魔神である。
かれは、毎日朝と夜にメインのご飯を食べ、それ以外は、家人が出かけるときにおやつをもらう。おやつは、牛の皮を乾かしたもので、かめばかむほど味が出る(たぶん)。

しかし、とびおくんは家人から食べ物を与えられているだけでは、アナグマ狩り犬として生まれた甲斐がないと思う。
いつでも、内側から湧き上がる狩への本能を感じずにはいられない。

狩はどこででもできる。
それがとびおくんの信条である。
ただし、家人がいるとき、狩はご法度である。家人は、なぜかとびおくんが狩をするのを嫌がるのだ。まぁそれも仕方ないか、ととびおくんは思う。
人間と犬との間には、乗り越えがたい深くて暗い溝があるのだ。
とびおくんは、3歳に至るまでそのことを悟った。

というわけで、とびおくんの狩は、家人が出かけたときからはじまる。
フンフン、フンフン♪
獲物のいる場所はおおむね検討がついている。
それは、家人が高い場所でなにやら美味しそうな匂いを立てるテーブルの上だ。
昔はここで、かりんとうや、かつおぶしや、パン粉や、飴や、もちきびなど、さまざまな獲物を獲得することができた。
その後しばらく、テーブルの上からは獲物の姿が消えて久しかったが、別のテーブルの下からも時々獲物が見つかることがあった。

とびおくんは、テーブルの下の物入れのところに鼻を突っ込んで、フンフンフンフンと、鼻息も荒く執拗に匂いをかいだ。
まず、目に付いたのはビニールだ。
この袋の中に獲物が入っている確率は高い。
とびおくんは、ぱくっと箱から飛び出したビニールを咥え、ぐいっと机の下から引っ張り出した。床でしばらくガジガジかじってみたが、中から食べ物らしきにおいはしない。
これは、ハズレか。
気を取り直して、再びテーブルの下の棚に鼻を突っ込む。
奥のほうにもう一つ別の袋が見える。
とびおくんはこれもぱくっと咥え、再び勢い良く引っ張った。
すると中からほんのりと甘いような見知った匂いがする。
とびおくんは、自慢の細長い鼻をさらに袋の奥深くへと潜らせた。
袋の中にはまた別の袋がある。本能的な確信が身の内にひらめくのを感じ、その袋を思い切って外に引っ張り出した。
食い破ると、袋からは白く煙が上がった。
とびおくんは、くしゅっとくしゃみをしながら、その甘いような芳しい匂いに魅せられた。
これは、昔テーブルの上で見つけたパンと同じ匂いだ。
とびおくんは、鼻息も荒く袋の裂け目をさらに広げ、激しく粉の中に顔を突っ込んで行った・・・。


家に戻った家人は、台所の床に巻き散らかされた白い粉を目撃した。
すぐ近くには、ケーキ用全粒粉の無残に引きちぎられた袋が落ちていた。
「・・・トビー!!!!!」
ドスをきかせた声が部屋中に響き渡る。
とびおくんはすでに危険を察知して、ドアの入り口で家人が立ち止まったとき、その足元を掠めてベッドの下に避難していた。
ちょっと後ろ足を崩した横座りで、家人の様子を窺う。
今日の獲物は食べにくかったな、
鼻の頭がなんだかカピカピに固まっちゃったし、
前足もばさばさになっちゃって、
ソファーで鼻を拭いても綺麗にならないし、
そんなことを思いながら、家人がプンプンしながら掃除機をかけているのを見守るのであった。